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岡山地方裁判所 平成6年(ワ)1182号 判決

反訴原告

森谷節子

ほか三名

反訴被告

陸陽運輸

ほか一名

主文

一  反訴被告らは連帯して、反訴原告森谷節子に対し二八二万九八六〇円、同森谷文雄に対し九四万三二八六円、同木村光子に対し九四万三二八六円、同千田枝美子に対し九四万三二八六円、及び右各金員に対する平成六年四月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は反訴被告らの負担とする。

三  この判決は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

主文と同旨

第二事案の概要

一  本件は、反訴被告清水一也(以下、「反訴被告清水」という。)が反訴被告株式会社陸陽運輸(以下、「反訴被告会社」という。)の職務を執行中、大型貨物自動車の運転操作を誤り、承継前反訴原告森谷秀二(以下、「秀二」という。)方の納屋に激突して(納屋を含む)建物及び庭を損壊したため損害を被つたとして、秀二の相続人である反訴原告らが、反訴被告清水及び反訴被告会社に対し、損害賠償を求めている事案である。

二  争いのない事実

1  事故の発生

(一) 日時 平成六年四月二七日午前三時三〇分頃

(二) 場所 岡山市藤田四二五番地の七五先県道上

(三) 加害車 大型貨物自動車

反訴被告会社保有

(四) 運転者 反訴被告清水

(五) 被害者 秀二

(六) 事故態様 反訴被告清水が反訴被告会社の職務を執行中、加害車の運転操作を誤り、秀二方の木造の納屋に激突した。

2  責任原因

反訴被告清水 民法七〇九条

反訴被告会社 同法七一五条

3  損害

本件事故により、秀二所有の建物(母屋、スレート製納屋及び木造の納屋)及び庭が損壊した。

4  相続

秀二は、平成七年六月一七日死亡し、反訴原告森谷節子は秀二の妻、同森谷文雄、同木村光子及び同千田枝美子は、秀二の子である。

三  争点

損害額(請求額五六五万九七二〇円)、特に、建物及び庭の補修代。

反訴被告らは、建物及び庭に生じた損傷部分は反訴被告会社においてすでに補修済みであるから、秀二に生じた右損害は填補されている、また、建物の補修に関して修理費用が時価を上回る場合にはその時価額(交換価格)を損害賠償すれば足りると主張している。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

第四判断

一  建物及び庭の補修代について

前記争いのない事実1ないし3、証拠(甲一、二、乙一の1ないし37、二ないし一四、証人平岩祐一(一部)、反訴原告森谷文雄本人)並びに弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。

1  秀二方は、倉敷から都に至る県道に面した北側にあり、敷地の北西に母屋が、北東には木造の納屋、そして南東にはスレート製納屋(以下、両納屋を併せて単に「納屋」ということもある。納屋は築後約二〇年経過している。)が建てられており、敷地の南西部は植木数本が植わつた庭になつている。

本件事故は、反訴被告清水が、反訴被告会社の職務の執行として、大型貨物自動車(大型トレーラー)を運転して右県道の左側車線を走行中、前方不注視の過失により、道路左側端の縁石を越えて、秀二方の庭を南西方向から北東方向に暴走し、庭とスレート製納屋の間の空地に駐車していた普通乗用自動車の前部に衝突した後、母屋の南東側軒先をかすめて木造の納屋に突入して停止したというものである。

2  右事故によつて、秀二方庭の植木が数本倒壊し、スレート製納屋及び母屋の屋根等が破損したほか、木造納屋の屋根が落下し、壁及び柱等が破損した。

右事故後の平成六年四月三〇日、反訴被告会社の清水健一社長と大平建設株式会社の平岩祐一が秀二方に被害状況の調査に訪れて、秀二に対し、建物(母屋、スレート製納屋及び木造納屋)の被害を修復するには、仮倉庫新設に要する費用を除いて約八〇〇万円かかるとの概算を示した。また、同年五月二〇日ころ反訴被告清水から岡山南警察署に提出された見積書では、秀二方納屋修復工事他(但し、植木跡片づけ処理及び倉庫内片づけは別途)に要する費用として、七〇〇万円が予定されていた。そして、反訴被告会社は、同年五月一〇日から同月二七日までの間、建物及び庭の一応の補修工事をし、それにかかつた費用は、納屋改修工事が一三四万円、納屋下野改修が七一万円、母屋の屋根補修が二〇万円、仮倉庫新設工事が二五〇万円(納屋を改修する際に、納屋の農機具等を一時保管する仮倉庫が必要であるため)、その他雑工事及び諸経費が一六万円であり、その合計額は四九一万円であつた。

しかし、反訴被告会社においてなした右補修工事は一応の応急的なもので、母屋の補修については、軒先の敷桁が破損したままであるし、外壁のモルタルも剥がれたままになつており、補修は不完全な状態にとどまつている。また庭も、倒れた木については反訴被告会社がなした補修工事で同種のものが新たに植えられているが、壊れた灯籠及び庭石はそのまま放置されており、補修は不完全な状態である。さらに、納屋は、破損の程度が大きく、二つの納屋のつなぎ部分に隙間があいて雨漏りがするし、電灯線及び二〇〇ボルトの電源が切れたままで屋内の電灯も点かない状態のままである。特に木造の納屋は、基礎、柱、梁の大部分が破損しており、西側の入口付近の柱二本及び西側の壁等の補修工事が行われた後も、納屋全体が傾いていて将来的に危険な状態である。

3  右認定の経緯、建物等に生じた損傷の程度及び未補修部分の現状等を考慮すると、建物及び庭に生じた損害額のうち未だ填補されていない分、つまり、未補修部分を補修するのに必要な費用は、ミサワホーム中国株式会社に勤務し一級建築士の資格をもつ反訴原告森谷文雄作成の見積書(乙六)どおり、四六五万九七二〇円をもつて相当と解する(反訴原告森谷文雄本人尋問の結果によると、乙第六号証の見積書は、同人が一級建築士としての立場で客観的な資料に基づいて算出したこと、及び母屋の復旧工事等のように、反訴被告ら提出の見積書(甲二)よりも、修理に要する見積り金額が小さいものもあること、庭についても、前記認定の壊れた灯籠及び庭石の修復費用を請求していない点で控えめに見積もられていることが認められ、逆に、右の見積り金額が不当に高額であることを認めるに足りる証拠はない。)。

4  反訴被告らは、本件事故によつて建物等に生じた損傷部分はすでに補修工事をしたから、秀二に生じた損害はすべて填補されたと主張している。しかし、前記認定のとおり、反訴被告会社がなした補修工事は一応の応急的なものにすぎず、未だ右補修工事をもつて損害の回復が十分になされているとはいえない。

また、反訴被告らは、物を毀損した場合に、修理費用が時価を上回る場合にはその時価額(交換価格)を損害賠償すれば足りるとも述べる。しかしながら、本件では建物の修理費用が時価額を上回ることの立証がない。証人平岩祐一は、その証言中で、本件納屋は築後三五年ないし四〇年で、現存価格は五〇〇万円であると述べるが、右の証言は、客観的な裏付けを欠き採用できない。したがつて、反訴被告らの右主張は採用できない。

二  したがつて、秀二が本件事故によつて被つた損害額は次のとおりであることが認められる。

1  家屋及び庭の補修代

前記認定のとおり、四六五万九七二〇円。

2  慰謝料

本件事故による建物や庭の被害の程度、その他本件に表れた諸般の事情を考慮すると、本件事故によつて秀二が受けた精神的苦痛に対する慰謝料は、五〇万円が相当である。

3  弁護士費用

本件事案の内容等を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は、五〇万円と認めるのが相当である。

4  合計額 五六五万九七二〇円

三  よつて、前記争いのない事実4を考慮すると、反訴被告らに対し、秀二の妻である反訴原告森谷節子は、二八二万九八六〇円、秀二の子である反訴原告森谷文雄、同木村光子及び同千田枝美子は、それぞれ九四万三二八六円(一円未満切り捨て)の損害賠償請求権を有する。

第五結論

以上によると、反訴原告らの請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九三条一項を、仮執行宣言について同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 白井俊美)

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